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なぜもめる?日本におけるドメイン登録独占の影響

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先日、GMOの熊谷社長が自身のブログ上において、JPRSさんがレジストラ業務を開始することについての公開質問を掲載されました。

株式会社日本レジストリサービス(JPRS)さんへの公開質問です

内容を今北産業でいうと、

独占的にJPドメインを扱っているJPRSさんが、
誰でも参入できるgTLDドメインの扱いをはじめる表明をしたため、
同じくgTLDを扱っており競合になるGMOさんが「フェアでない」という声を上げた。

ということです。

私も「フェアでない」と思っていますし、JPRSユーザ会という場においても「JPRSさんがgTLDドメインの取扱いをやらないほうがいい理由」を話しました。
しかし、多くの中小事業者はJPRSさんにgTLDドメインを取り扱ってもらいたいという考えでしたし、そもそも今回のろしを上げたGMOさんはその場に出席すらしていませんでした。

そういった経緯もあり、今回の件についてこれ以上の指摘は無意味だろうということで、特に関わるつもりもありませんでしたが、さまざまな方から私へのさぐりが多く、考えを聞かせてくれというメールも多いので、自分の考えについて経緯を踏まえながら書かせて頂くことにしました。
長文ですが、お時間があればお付き合いください。


はじめに

まずはじめに、レジストリとレジストラについて解説をします。

ドメイン名の登録というのは、複数の人に重複して登録されないよう一意性が重要になります。
そのため、トップレベルドメイン(TLD)ごとにデータベースは必ず1つである必要があり、単独の一社で管理されています。このデータベースを管理する事業者のことをレジストリを言います。
そして、レジストリのデータベースを利用して、実際にドメインの登録を行う事業者のことをレジストラと言い、TLDごとにたくさんの事業者が存在します。
さくらインターネットはレジストラではありませんが、GMOさんをはじめ、ライブドアさんやファーストサーバさんなど、国内にも多くのレジストラが存在します。
レジストリとレジストラを分けるのは非常に煩雑ですが、その煩雑さを乗り越えてでも参入の平等や競争環境の創出を目指して、先人たちが大変な苦労を乗り越えて分離モデルを作り上げました。

しかし、分離モデルは.com / .net / .info のようなグローバルなTLD(gTLD)において行われているのが大半で、国別ドメイン(ccTLD)においてはレジストリとレジストラが分離されていないことも多く、日本のドメインである.jpにおいては指定事業者というレジストラに順ずる事業者はあるもののJPRSというレジストリ事業者の権限が非常に大きいのが現状です。

そのような環境下に置いて、独占状態による競争の無さからドメインが高額であるとの指摘が多く、事あるごとに議論が続いてきました。
また、JPRSさんにおいては、レジストリを独占的に行いながら、ユーザへ直販するJPDirectというレジストラ機能も行っており、gTLDのようなレジストリ・レジストラ分離は行われていません。おまけにJPRSさんが、.comや.netといったgTLDのレジストラも開始するということになり、大きな問題に発展しています。

今回は、.jpが独占的であるということと、ドメインが高額であるということに加え、他ドメインのレジストラを行うことに対する問題点を書きたいと思います。


独占的であるということについて

.jpにはレジストリは1社しかありません。前述の通りJPRSさんが行っています。
その上、thick registryと呼ばれる、whoisや個人情報の管理までレジストリが行う「大きなレジストリ」形態をとっているため、さくらインターネットやGMOさんのような事業者はJPRSさんに取次ぎしているだけで、ドメインの管理を行ったり、価格をコントロールしたりする権限は極めて少ない状況です。
このような環境下に置いて、コスト体質であるとか、経営の決定プロセスが開かれていないとか、莫大な利益を上げ特定の株主が配当を受け取っているとか、多くの指摘がなされています。

ただ、国別TLD(ccTLD)において特定の団体の力が強い状況は日本以外でもありますし、結論から先に言うと「特定の人に利益が生まれるような状態で無く、信頼性の高い運営が行われているのであれば、独占状態も消極的に受け入れても良い」と考えています。
JPRSさんの役員には天下りなど、いわゆる給与泥棒に当たるような役員はいないはずですし、経営陣は健全見えます。
コストが高いという点についても、世界的に見て大変信頼性の高いDNSシステムを構築していますし、ドメインに関する研究開発に資金を拠出しているのも事実です。

特定の会社名は出せませんが、「自分がやれば.jpはもっと安く出来る」と仰っているとある会社においては、数度にわたりドメインの根幹であるDNSシステムに障害を発生させ、数日にわたってダウンさせるという事態に至っています。
その際には同じネットワーク(LAN)かつ近傍(同じ?)のラックにプライマリ・セカンダリのネームサーバを設置していたということが露呈して、たいへん問題になりました。

DNSが止まると、いくらネットワークやサーバが頑丈でもインターネットは利用できないに等しい状態になります。事実、他国のドメインにおいて何度か止まってしまって苦い経験をしたこともあります。
それだけ重要なインフラなわけですから、JPRSさんの運用体制については大変信頼しています。

ただ、配当に関してはやめたほうが良いのではないかと思っています。
かくいう当社もJPRSさんの株主であり、毎年少なくない配当を受け取っています。
しかし当社は配当をもらうために資金を拠出したのではなく、信頼性の高いjpドメイン運営を続けるための安定株主として拠出したわけですし、かつJPRSさんがおかしなことになってしまったときにモノを言う権利を留保するために拠出したわけです。
JPRSさんの株主では大手事業者のほかに、現経営陣も大株主になっておられます。
現経営陣が自分のために配当しているわけでないのは良く知っていますが、経営者はストイックなまでの清廉潔白さが必要だと私は考えています。
なので、少しでもうがった見方をされるような経営判断は、積極的に回避すべき考えます。

また、経営陣についても定期的に見直すくらいの気概は必要かと思います。
少しだけJPRSさんの擁護をするなら、JPRS設立当初は事業性も非常に不安定で、世間で言われるほど確実性の高い事業計画でもなく、その当時に役員になり、身銭を切って出資した人たちは賞賛されるべきであると思います。
ただ、公益性の高い独占企業の経営者は極めて透明性の高い行動をするべきだと思いますし、勝手な言い分であることは承知の上で改善をお願いしたいところであります。

高額であるということについて

次に高額であるということに対する話ですが、私はjpドメイン名が絶対的に高いとは思っていません。
以前は値下げ論者でしたが、「相対的に高い」「絶対的に高い」という尺度において、後者だけで物事を見ても意味が無いと思います。
jpドメインが相対的に高いのは、jpドメインの数が相対的に少ないからだけです。

先日、.jpが世界でもっとも安全との調査がありました。
コレにはJPRSさんの努力はあるでしょうけれど、実際には.jpがそれなりに高いのと、日本国内のユーザに限定していることが影響しており、少し高いけど信頼性の高い.jpドメインという方向性は成功しているように見えます。

「.jp」は世界で最も安全なccTLD、McAfeeの調査で2年連続
http://internet.watch.impress.co.jp/docs/news/20101028_403080.html

またJPRSさんでは、「大きなレジストリ」体制を活用し、インターネット全体に影響を与えてしまうような失敗設定に対して積極的に修正依頼を行ったり、DNSSECなどの新技術に対して積極的に取り組んだりと、世界的に見ても熱心で手厚い登録事業者であることは間違いありません。

企業にとって、汎用JPの卸価格である年間2,250円は本当に微かなコストだと思います。
安いドメインが必要ならgTLDをとればいいだけですし、.jp以外の選択肢があるわけですから、相対的な値段にこだわっても意味がありません。
さくらインターネットのレンタルサーバにおいては、jpドメインの倍以上のgTLDが管理されていますし、私自身も.jpドメインはgTLDより高いので、信頼性の必要なドメインでしか.jpは利用していません。

要は選択の問題です。
「信頼性はそこそこほしいが、手厚い管理体制はいらないし、やっぱり安いほうがいい」ということなのか、「少々高くても、しっかりとした管理体制があり、信頼性は高いほうがいい」ということなのか、どちらかです。
ドメインには、少々止まっても安ければよいという個人ユーザから、100万円払っても良いから止めてもらったら困るという大手サイト管理者まで居ます。
私の個人ドメインと、mixi.jpだと価値の差は歴然ですが、ドメインにはこの2者が入り乱れているのが難しいところで、単純に安ければよいという議論ではないと思います。
もちろん配当減らしてドメイン値下げせよというのは理解できます(ただ配当やめても1割も下がりません)が、そもそもドメイン数がgTLD並に存在しない限り大幅な値下げは難しいと言わざるを得ません。

余談ですが、大幅な値下げが行われた際に懸念していることがあります。
それは、解約ドメインなどに対する広告掲載です。
gTLDの場合、ドメインを解約するとほぼ間違いなく広告業者に食い物にされます。
多くのウェブサイトでは、更新をやめても1日に100件程度はアクセスがあるそうなので、1ヶ月で3,000件となり、0.1%がクリックされたとして年間36クリックとなります。1クリックが50円だとすれば、これだけで1800円の収入となります。
ただ、.jpドメインだとドメイン自体が高いので、上記のようなビジネスモデルが成り立ちません。
ドメインが安くなってほしいという考え方の裏には、解約ドメインなどに対する広告によるビジネスを成り立たせたいという勢力も少なからず居るのを知ってもらえればと思います。
さくらインターネットではやましい商売をしたくないので上記のような行為はしていませんが、試算では年間数千万円近い利益が出るということが分かっており、収益性の高いビジネスであるのは事実です。


JPRSさんがレジストラをやる件について

これは、どちらかというとGMOさんの意見に賛同するところで、結論から言うとJPRSさんはレジストラをやるべきではないと考えています。
実際、JPRSユーザ会という場において、「ドメイン名の管理を行う"レジストリ"と、ドメインの登録販売を行う"レジストラ"は別々に運用するのが世界の潮流であり、便利だからといってJPRSがやっていい問題ではない。」という話をしました。
むしろ、JPRSこそレジストリ・レジストラ分離の議論の対象なわけですから。

しかしながら、ドメインの扱いの少ない事業者からは、「大手事業者と違って我々は海外のレジストラと代理店契約をするのは面倒だし、ドル建支払いも手間。ぜひ国内事業者であるJPRSさんにやってもらえば便利」という話が出ました。

なので私は「国内でも、GMOさんや、ファーストサーバさん、ライブドアさんなど、多くのレジストラがあり、そこと代理店契約すればいいのでは?」と言いました。

それに対して「なぜ当社がGMOさん、ファーストサーバさん、ライブドアさんからドメインを買わなければならないんだ!」という返答です。

私は「なら、なぜ当社がJPRSさんからJPドメインを買わなければならないんだ!」と言いそうになりましたが、グッとこらえて意見するのをやめました。

私自身は現在の独占状態は良い事ではないと思いつつも、その体制によって信頼性の高いJPドメインが維持されている状況は迎合しても良いと考えています。

ただ以下の図のように、レジストリとレジストラが兼業していても単独のドメインに専念するか、完全に分離を行い複数のレジストリとレジストラが契約を結ぶのが通常ですので、今回のレジストリとレジストラを兼業しつつ別のドメインも取り扱うJPRSさんのモデルは大変いびつに見えますし、世界的に見てもほとんど例がありません。

20101103-registry.png

JPドメインは、8割の登録が2割程度の事業者によって行われています。
さくらインターネットやGMOさんをはじめとした、たくさんのドメインを取次ぎしている事業者によって8割のドメインが登録されていますが、社数で言うと2割でしかなく、意見を言う上ではマイノリティです。

事業者のJPドメイン取次ぎランキング

マジョリティである小口の取次ぎ事業者の方々は、自分たちの業務が楽になるからとJPRSさんにgTLDのレジストラをやることを要求していて、それは理解できる部分も多いのですが、「なぜ、レジストリ・レジストラという2つの存在があるのか?」という、理念的なことは共有しておいたほうが良いと思っています。

繰り返しになりますが、私は.jpの独占状態は消極的に受け入れて良いと思っています。
しかし、gTLDのレジストラを兼務するのであれば、.jpのレジストリとレジストラの分離問題に対して根本的な議論を再開すべきだと考えています。

だらだらと書きましたが、私の意見をまとめると
「JPRSの独占状態や多少の高額は、信頼性の裏返しとして受け入れるが、それ以外のドメインにうつつを抜かすな」
ということです。

GMOさんとは根本的な考え方も、理由も全く異なりますが、それでもJPRSさんがgTLDのレジストラをやらない方が良いというのは同じ意見ではあります。
JPRSさんには再考頂くことをお願いしたいところです。

※ちなみに、内容に対してJPRSの東田社長からもコメントが出ているようです。(2010/11/5 20:50 更新)
熊谷会長のブログへのコメント

※レジストリとレジストラの位置づけが混同しているのではとの指摘があり、表記を全面的に見直しました(2010/11/5 23:50 更新)

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少々忙しいところなんだが週末なのでたまにゃブログでも書くかと思っていたら、タイ... 続きを読む

By ダーシャン ナドーこの記事は海外ドメインニュースサイトに取り上げられまして、ここで日本語訳をアップしました。元の英語記事はこちら:英語記事2010年... 続きを読む

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さすが、ユーザー会などの場で一貫した意見を出されている田中さんの考えと観察には頭が下がります。

やはり現場レベルでの情報収集と対話による状況判断が重要ですよね。

私としては、表面を流れる偏った情報ではなく、皆さんに読んでいただきたい内容です。

JPRSのJPダイレクトに関しては、そろそろ入札でもして事業譲渡すれば良いのではないかと思ったりしています。
一般法人なので、事業譲渡で個人情報の移行も十分可能ですし、JPダイレクトを利用されているドメイン所有者に金銭的かつ顧客サポートのメリットもあるのですから。

twitterから来ました。
GMOさんの言ってることは理屈が分からなくて、
JPRSさんの言ってることは逆に理屈っぽくて、
話がよくわからなかったのですが、
さすが田中さんという感じで分かりやすい説明だと
思います。

ただ、つまるところ、
- JPRSさんのjpのサービスは信頼性があって料金高い
のも納得できる。
- そんな品質を引っさげてgTLDもはじめたら、DNS障害
を起こすようなレジストラはお客を取られて涙目
- それを防ぐために理屈の分からない公開質問してみる
という構造ですね。

誰でも参入できるgTLDにJPRSが参入するなって、気持ちはわかるけど理屈は通らないと思います。

はっきりと「天下り団体がjpドメイン独占するなよ!」って言えばいいじゃないですか?
その方が私は好感が持てますけど。

田中さんが言われるようにJPRSのJPドメイン独占に
関しては、問題ないと思います。
逆に管理する業者が増えると管理方法が曖昧に
なり、ドメインのトラブル増加すると思います。

米ベリサインみたいに、ネットワーク・ソリュー
ションズを買収したように、JPRSもすれば文句
言われなかったのでは?と感じました。 

たとえば、JPRSが21ドメインを買収とか(笑)
買収はちょっと違うかもしれませんが

JPRSとして、gTLD行うことが問題ですよね。
筋をとうさないと、後で色々問題がありそう
ですね。 
さくらさんもメルボルンITでなくて、gTLD
はじめてください。影響力はあると思います。

メルボルンITはのAuthCodeやRegistryKeyなどが
あるので、

さくらさんが海外レジストラ「メルボルンIT」から.comや.netを仕入れるより国内レジストラ「GMO」等から仕入れるほうが国益になると思います。
しかし、さくらさんはじめ国内ホスティング事業者が国内レジストラからではなく海外レジストラから.comや.netを仕入れている本当の理由が知りたい。
なぜですか?

JPRSさんの企業ヴィジョンが見えないですね。東田社長のコメントも読みましたが、建前ばかりで本音が見えてきません。

”安全なドメインを運営することでJPドメインをブランディングする(=建前?)”ことがJPRSさんの企業ヴィジョンならば、その相対となるgTLD(安売りドメイン)を販売する意味はないように思います。それは、例えば、シャネルやエルメスのような高級ブランドが「今後、我々はユニクロも売ります!」と言い出しているようなものなのでは?まぁこの場合は別に問題はないですが…w

つまるところ、安いgTLDの方がたくさん売れている現状に指加えてみてるのが悔しいので、商売を考えたら我々もgTLDも売りたい!売らせろ!と言うのがJPRSさんの本音なのでしょうね。でも、既存レジストラからすれば「独占のレジストリ持ってんのに今更gTLDやるなんてきたねー!んなら独占やめろ!」と言いたいところかな。

> しかし、さくらさんはじめ国内ホスティング事業者が国内レジストラからではなく海外レジストラから.comや.netを仕入れている本当の理由が知りたい。

そりゃ、そんなことしたらGMOから自分のホスティング客に「ウチのホスティングの方が安いよ」とか営業かけられて持っていかれちゃうからだろ。
ドメインを仕入れるってことは客の情報を渡すことだ。
GMOがホスティングやってなけりゃいいんだろうけどな。

図の「JPRSモデル」が何を表そうとされているのかよくわからないのですが、「世界的に見てもほとんど例がない」というのは重要なことではないと思います。それが社会のためになるかどうか、ですよね。

#もちろん、そこに賛否両論あるわけですが。

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自己紹介

本名:田中邦裕/1978年生まれ
1996年にさくらインターネットを創業しホスティングサービスを開始。 98年に有限会社インフォレスト(2000年に解散)設立後、翌年にさくらインターネット株式会社を設立して社長に就任。
05年に東証マザーズに上場
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このブログ記事について

このページは、田中邦裕が2010年11月 4日 16:11に書いたブログ記事です。

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