マストドンと北朝鮮危機にみるインターネットの本質的価値

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最近、世間の話題をさらっていることは、北朝鮮との間で戦争が起こるのではないか、日本にミサイルが飛んでくるのではないかという不安ではないでしょうか。私自身もミサイル攻撃された際に、インターネットが果たして有効なものなのか、そのとき事業者はどうすればよいのか、ということに対して、もやもやと考えるきっかけになりました。
そんな中、いまネット業界を震撼させているのは、マストドンによるSNSの生まれ変わりへの希望ではないでしょうか。mstdn.jpを運営する大学院生のnullkalさんが自宅の自前サーバーから、うちのさくらのクラウドに移ってきた話を眺めながら、インターネットってすごいなぁと改めて感じました。
こんな、この全く異なる二つの話題を見ながら、インターネットって何なんだろうなぁと改めて思いにふける機会がありまして、せっかくなのでメモ程度に書き残しておこうと思いました。
まあ、私の個人的メモみたいなもんなので、クオリティはご容赦ください。

さて、まずインターネットって何なのか、という話について。
mstdn図1.pngインターネットを技術的側面からとらえると、IPとよばれるインターネット用の通信手段によって、世界規模でつながれた、コンピューター間のネットワークだと言われています。
意外と知られていないのは、IPが1970年代に開発され、1980年代にはインターネットが存在していたという、けっこう歴史の深いものであるということです。
そもそもの開発の動機は、全面核戦争になったとしても(諸説あって、違うという人も多いです)ネットワークが維持されるようにという思想からで、集中したポイントを作らず、完全に分散したネットワークを作ろうというのが理想であり、冷戦時代の全面核戦争の危機という切迫した社会的課題から生まれた側面もあるそうです。
ちなみに、英語で the Internetと呼称しますが、インターネットは複数存在するものではなく、世界に一つであり、どこからでもIPアドレスさえわかれば相互接続できます。
インターネットの本質的な価値とは、核攻撃などで部分的に壊滅的な被害を受けようともネットワークが維持されるというもので、完全に分散していることと、一つのネットワークであり続けるという、一見矛盾したことを両立させているところにあります。

mstdn図2.pngこれだけ価値のある技術ですが、実際に一般へ普及するにはもう少し時間がかかります。
普及へのきっかけとしてIPを標準搭載したWindows95の発表も重要ですが、それ以上に私見ではありますが、ウェブが最も大きな要素だと考えています。1991年に「WWW」が発表されて世界初のブラウザーが世の中に現れるとともに、分散した文章が互いにリンクを張ることで一つになれることを示しました。また1993年に「Mosaic」が発表されて画像が扱えるようになり、今では死語ですが「マルチメディア」すなわち文章だけではなく様々情報が一つになれることを示しました。私はこれがインターネット普及の最大のブレークスルーだと考えています。
インターネットの発明によって世界中のコンピューターがつながり、技術的な意味で一つになることができたあと、ウェブの発明によって世界中の情報がつながり、技術的にも情報的にも世界が一つになるわけです。
ちなみに、もう一つ重要なプレイヤーがいます。ウェブのリンクの構造を解析して大儲けして、世界一の時価総額を実現した、そうGoogleの存在です。

インターネットというと、私のようなエンジニアだと技術的な観点で見がちですが、多くの一般人がブラウザーのことをインターネットだと思っているように、技術的側面よりも情報的側面のほうが重要なんだなと感じるわけです。
そういえば、Windows95にはInternet Explorerのアイコンに「インターネット」って書いていた気がしますね。

さて、マストドンとインターネットの歴史とは、まったく関連しないような話ですが、インターネットの分散への一つの警鐘という意味では深いつながりがあると思っています。
インターネットの本質的な価値は、分散したものが一つになるというところにありますが、最近の集中する動きに対してのアンチテーゼをみんなが求めているということです。
私はTwitterを便利に利用していますが、TwitterはTwitterという会社に依存しています。この依存は、アカウントのIDパスワードという意味であり、サーバーリソースという意味であり、そしてサイトのポリシーという意味ですが、巨大な一社が何かを支配するというのは、技術的にも情報的にも、本質的にはインターネット的ではありません。
そんな中で、分散したノードが緩やかに連携しながら、分散したサーバーリソースで、運営者もポリシーも違う情報が、リモートフォローをして一つのタイムラインを作っているのは、いかにもインターネット的だなと思うわけです。
正直なところ、効率性からいうと集約したほうがいいわけですが、分散というオーバーヘッドを乗り越えてでも、(インターネットとウェブを除いて)新たな巨大ななにかを作りたくないという意思を見た気がします。

あと、mstdn.jpが自前サーバーで厳しくなった後の動きも、なにか明るいものを見た気がしました。
私は、さくらインターネットという会社の創業者であり社長なわけですが、創業した21年前は18歳で舞鶴高専4年生であり、お金も地位も名誉も人脈もない、一介の学生でした。そのような学生が、勝手に立ち上げたFreeBSDとApacheの自前サーバーでウェブサーバーを公開し、最終的に東証一部上場企業になるような運のいい話がインターネットであれば実現できるわけです。
今回のmstdn.jpを見ていると、そのような自分を思い出したし、当時支援をしてくれたたくさんの人たちがリターンも特に考えずに私のために行動してくれた理由も今ならよくわかります。
そのうえで、今回のmstdn.jpのサーバー移転においては、さくらインターネットの子会社であるゲヒルン株式会社のisidaiさん(ゲヒルン社長)が、さくらの人たちと連携しながら、私も知らない間に、いつの間にか達成されていたというのがポイントです。
組織の在り方そのものかもしれませんが、ビジョンはトップダウンで、行動はボトムアップであるほうがいいと考えているわけですが、企業が正しい行動をするためには、社長の行動の速さや管理能力より、現場の行動の速さのほうがよっぽど重要だということです。そういう意味でもインターネット的であると感じます。
そういえば、震災の際に停電情報などを発信していたisidaiさんに、VPSサーバーを大量に無償で貸していたことが、ついこないだのように思い出されます。

さて、そんな牧歌的な話をしつつも、北朝鮮からいつミサイルが飛んでくるかもわからない状況が着々と近づいています。
いま日本のインターネットは、多くのデータが東京で交換されており、そもそも多くのデータセンターが都内・関東に存在しています。シンゴジラにおいて、品川方向から上がってきたゴジラ氏を大手町で仕留めていましたが、そんな中でインターネットを使っている人たちを見て、「いやインターネット止まってるやろ」と画面に突っ込んだ覚えがあります。
そのあたりは「「シン・ゴジラ」にみる、ニッポンのITインフラの虚構と現実 (4/5)」にて取材に答えています。

効率から考えると、東京に一極集中させてデータ交換をしたほうが効率的ですが、分散というオーバーヘッドを乗り越えてでも耐障害性を上げるというインターネットの根本的な考え方からいうと、今の日本のインターネットの状況は理想的ではありません。

ただ、私はそのようななかでも、ギリギリ維持される可能性もあると思います。
mstdn図3.gif
東日本大震災の際には、多くの海底ケーブルが切断され、NTTやKDDIといった大手のインフラオペレーターは必死でトラフィックを分散させながら、ギリギリのところでインフラを維持しました。
またKDDIの国内ケーブルが切断されたことによって、北海道・東北の通信が途絶する障害も発生しましたが、会社を越えて現場のオペレーター間で連絡を取りながら、他社の光ファイバーを借り受けて2日足らずで仮復旧させたというのもすごい話ですし、最低限の接続性さえ確保すればインターネットして機能するというのはインターネットのすごさだとも感じます。
(※図は、「[4]インターネット"神話"の検証:ITpro 」より)

最後に、日本のインターネットは核攻撃されたときに、どうやって維持されるんだろうということを見てみたいと思います。
さて、インターネットはBGP4というお互いのIPアドレスを交換する仕組みによって成り立っています。
さくらインターネットの持っているIPアドレスも、BGP4の仕組みで世界中に広報され、いくつもつながっている様々な回線から「この回線通ると、さくらインターネットのIPアドレスにつながるよ」という情報を交換してもらっています。
ただし、回線によってコストが変わるし、帯域(1Gbpsとか100Gbpsとか)が変わるので、意図的にデータを流す回線を調整しています。
そして、多くの会社が東京のIX(インターネット交換所)を通じて、お互いのデータを交換しています。
そういった中で、東京のIXがいくつか壊されるとどうなるかというと、別のIXを使わないといけなくなったり、IXを通さずにお互いの会社で直接光ファイバーを引いたりしてつなぐことになります。
そんな中、東京や大阪においてミサイルが飛んできて私が運悪く死んでしまったとしても、エンジニアの命と希望さえ残っていれば、なんとか通信経路を確保して、数日~数週間でインターネットを直してくれるのではないかと思っています。
日本には、JANOGとかWIDEとか、インターネットのインフラ系のコミュニティが存在していて、会社の利害を鑑みながらも、インターネットのために行動しようとしている人たちがいます。
大阪にもIXはありますし、経済性ではなく、とにかく復旧させるという意気込みで会社を越えて一致団結するんだろうと思います。

結局、インターネットの本質的価値って、分散していてどこかが無くなったとしても、別の経路でつなぐことができて、いつも一つのものとして存在しようとする、このこと自体なんだろうと思います。
そして、それをつなぐのは結局、ボトムアップの現場の人たちの行動なのだということで、実はこのこともインターネットの本質的価値なのかもしれません。
そのうえで、経営者も利用者も、「前もトラブルをうまく回避できたのだから、次もうまくやってね」、といった認識をしてはならないということです。
また、いざとなったらその時に大阪のIXを契約すりゃいいやとか、その時だけ回線を貸してもらおう、といった考え方をしてはならず、もっと業界として準備をしてコストをかけて、オーバーヘッドがあっても耐障害性を常に考えなければならないなと痛感します。
インターネットそのものと、インターネットの本質的な価値をいつまでも維持するために、経営者も利用者も、インターネットとそれを守る人たち(インフラも、サービス管理者もすべての the Internet を作る人たちに)に敬意を払う姿勢を忘れてはいけないなと感じます。
まずは、mstdn.jpの管理者のnullkalさんに敬意を払い、応援したいと思います。