福知山線の復旧とATS-Pの設置

先日の列車脱線事故から、2週間が経ちました。いろいろと報道がなされ、少しづつ状況や背景などが分かるようになってきました。
その中で、「速度超過」と「ATS-P」というキーワードが注目されています。事故の原因と、防護できた可能性ということでよく出てくるわけですが、結局は遠因といえる体質に無理やりつないでしまっています。もちろん、体質にも問題があるのは明らかで、私もそれについては述べてきました。
しかし、速度超過を「厳しい労務管理」、ATS-Pを「安全投資抑制」という観点からつないで、『体質だ!』とJRを批判することではなく、実際にどういう影響を与えたのかを掘り下げていくことが重要です。

また、国土交通大臣はATS-Pが無ければ宝塚線の復旧はダメと言っているようですが、確かに「利用者や被害者・遺族に対するシンボルとして」ということは私も理解できます。しかし、交通行政を取り仕切る官庁のトップが被害者・遺族心情の配慮だけで交通行政を採ることは危険です。もちろん大臣は官僚ではなく政治家ですから、プロパガンダも重要なんだろうと思いますが、北側氏のためにATS-Pを設置するわけではありません。
現在、阪急宝塚線は飽和状態です。利用しているうちの従業員によると朝は乗れないこともしばしばで、夜でも「押し屋」が出動しているそうです。また、バスも飽和状態で宝塚−三田北摂地域の交通事情は、劣悪な状況であることを交通行政のトップは見えているのでしょうか。
逆に観点を換えATSの安全性ということですが、速度超過で事故になった例は今回だけでなく、3月の土佐くろしお鉄道もそうです。宝塚線はATS-Sだから安全性不足だということであれば、都市部や終端駅を持つの多くの路線は運行できません。
だからといって列車の本数が比較的多いATS-P未設置の路線は、設置完了まで運行を停止させるなどということはできません。すなわち、安全性と交通網の安定稼動という2つのバランスをとることこそが、あるべき交通行政です。

もちろん、JRであの場所を通りたくない人は乗車しないでしょうけれど、宝塚で毎日陸橋を渡り乗り換えする手間、電車が満員で乗れないかもしれないリスクを考えると、JRの復旧を望む人はかなりの数であろうと思います。「乗りたくなければ乗らなくていい」という論理は、ともすれば大きな過ちを生むこともありますが、宝塚−大阪間はJR以外の経路もあり、JRの復旧により阪急が廃業するわけでもありません。逆に乗らざるを得ないに近い、三田北摂地域からの通勤客は、とんでもない無理を強いられているわけです。

ところで、国土交通省は、JRに対してATS-Pの設置基準示さず、最高速度についても議論せずに、放置していた立場であるのに、いまさら強権発動は所管能力の無さを露呈するものといえます。
ましてや、今回の原因は「速度超過」で、ATS-Pが無かったことではありません。すなわち、各駅停車だけで最高速度も70km/hという暫定ダイヤでの復旧も採りえるわけです。
また、ATS-Pがあったとしても、カーブで速度制限用の地上子を設置しなければまったく意味がありませんし、直前の直線の最高速度が120km/hで現場が70km/hとした場合に、申し訳程度に地上子を設置したとしても抑制できたのかどうかは疑問です。もし、今回の列車がカーブを通過していたとしても、それは問題の先送りでしかありません。
もちろん、どんな列車でも70km/hに減速できるくらい手前に地上子を設置し、減速のための設備を設置すればよいわけですが、距離の基準などは法律はおろか国土交通省令ですら、定められては居ません。
なお、ATS-Pに対応させるには、地上設備のほか、車上設備も必要です。福知山線を通過する多くの特急列車はATS-Pに対応しておらず、各駅停車も対応していない車両が多い状態で、どのような落としどころを考えているのでしょうか・・。

国土交通省は当然として、マスコミも含めて、ATSが「どのように整備されれば」安全なのかという観点で議論し、設置しなかったJRへの批判に終始することは少し休んだ方が良いのではないでしょうか?
いま一番重要なことは、次にこのような事故が起こらないように、対策を考えることです。

トラックバック(7)

関連: 朝日新聞:JR宝塚線で新型ATS設置工事 国交相の意向受け マスコミ各社の報道によると、今月2日に北側国交相が「ATS-P型を設置しなければ、事故路線の運行再開を認めない」との意向を示したとか。 で、これを受けてJR西日本は大慌てでATS-P型の設置工事を再... 続きを読む

いささか食傷気味な事故ネタですが、あくまでもメディアの事故報道にフォーカスして続 続きを読む

尼崎脱線事故から2週間が過ぎて何かこのことを使って議論をアラヌ方向に向けようとす 続きを読む

きっくん(ぷち)の便所の落書き - たなか@さくらさんの記事 (2005年5月11日 21:26)

http://tanaka.sakura.ad.jp/archives/000322.html 素直に同意しておこう. わたしは,北側国土交通大臣のパフォーマンスだと思っています.マスコミに煽られてATSを・・・とか,側面衝突強度を・・・・なんて,この国民にしてこの大臣あり.と言うところなんでしょうかね... 続きを読む

尼崎脱線事故後、国交省はカーブ手前での新型ATSの設置を義務付けました。国交省は 続きを読む

同じ鉄道事故でも、犠牲者が少なかったので話題にもならなくなった土佐くろしお鉄道の駅舎激突事故は、一つ手前の停車駅から宿毛駅間8・2キロを平均時速123キロで走っていたことがわかったようだ。 宿毛駅の停車位置から約180メートル手前で、ATSによる非常... 続きを読む

少し前に、この件は、今後は当局による捜査と原因究明に委ねるべき、と述べたので、お 続きを読む

コメント(3)

221ユーザー

たなかさんと全く同意見です。
新三田−大阪間を通勤していますが、ひどい通勤状況です。今回の事故で、三田・神戸市北区・西宮北部の方もかなり亡くなりましたが、さらに追い討ちをかけるようにこれら沿線住民は不便を強いられています。みんな当然連休明けには当然復旧すると考えていたので、大臣発言は不用意すぎると受け止められています。自らのパフォーマンスや見せしめ・いけにえ効果などいろいろ考えられるのですが、迷惑な話です。しかもこれは公式なものではありません。時間12本で過密で見直し、ATS−P区間は運転休止ならば全国で見直しが即座にされないといけないのですがいまだにそんな様子はありません。

たなか@さくらインターネット

>>221ユーザさん
新三田からの通勤ということで、お疲れ様です。うちの社員の一人も、つい先日までウッディータウンから通っていましたし、父親が篠山口から福知山線で新大阪まで通勤していたので、大変さがよくわかります。結局、阪急を利用すると乗換えが多くなってしまい、5分では済まない、大きな時間差になってしまいますからね。
ちなみに、うちの会社は堺筋本町なので、三田から通勤する場合に、JR東西線に直通する列車は非常に便利ですが、阪急だと梅田での乗り換えがとても大変です。JRの東西線直通が休みとなったとしても、尼崎の乗り換えが出来るだけで劇的に改善できるのですが・・・。
ところで、うちの会社は10時始業なので、事故をした列車が一番乗継がよく(南森町に9:34着)、社員も利用していたようです。たまたまその日に乗車していた社員はいませんでしたが、とても人事とは思えない事故でした。

ときかな

運転再開を強く望む、宝塚の住民です。平日は宝塚駅はいまだかつてないほどの人波です。JR、阪急の係員や警官まで交通整理にあたっています。放置すれば明石の歩道橋のような状況になるおそれもあるからです。沿線私学へ通学の小学生は危険な状態でしょう。みな、休日には梅田方面へ外出する気力もないのか休日はうそのように人がひいています。
北側大臣は「シンボル」と言ってる部分に本音が出てます。所詮、新型ATSは気休めさというくらいの感覚でしょう。悠長なことをいってる間に、混雑による事故や過労、地元の経済への打撃(私の知人の店も売り上げが半減。休日は閑古鳥だそう・・。)が出てきます。日比谷線は確か早期に復旧しましたね。
みんな、亡くなったひとや被害を受けた方に配慮してか何も文句はいいませんけど、マスコミのすり込みもあるような気がします。
ネットの世界だけなんでしょうかね。本音が言えるのは。